民間出身の初代宮内庁長官、田島道治(たじまみちじ)氏が、昭和天皇との対話を克明に記した「拝謁記」から、敗戦後~東京裁判後の当時の天皇の、揺れ動く心情が明らかになった。そして、この中で天皇が「国民が退位を希望するなら、少しも躊躇せぬ」と語るなどこの間、退位の可能性にたびたび言及していたことが分かった。 分析にあたった専門家は「皇室が本当に国民に認められるかどうかがすごく気になっていて、存続には国民の意思が決定的に重要だという認識がみえる」と指摘している。昭和天皇の退位をめぐる問題は、これまでの研究で昭和23年の東京裁判の判決に際し、昭和天皇が連合国軍最高司令官マッカーサーに手紙を送り、退位せず天皇の位にとどまる意向を伝えたことで、決着したとされてきた。しかし、現実には皇室の今後を見据え、退位をも辞さない覚悟を含めた葛藤があった。田島道治氏は戦後制定された日本国憲法のもとで、昭和23年から5年半にわたり宮内庁や宮内府のトップを務めた。在任中、600回余り延べ300時間を超える昭和天皇との対話を詳細に記録していた。