権中納言定家
※藤原定家
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに
焼くや藻塩の身もこがれつつ
【歌の背景】内裏の歌合のとき、定家が恋人を待つ女の立場になって詠んだもの。掛詞・縁語の無理のない使い方、じりじりとした気持ちで人を待つものの心情を歌った明晰さ、調べの巧みさが感じられる。
【歌 意】いくら待ってもやって来ないあなたを待ち続け、ちょうどあの松帆の浦の夕なぎのころに、海女が焼く藻塩のように、わが身も焦がれるほどに(あなたに)恋い焦がれているのです。
【作者のプロフィル】藤原定家。五条三位俊成の子。母は若狭守親忠のむすめで、美福門院の女房で加賀といった。応保2年に生まれた。早くから歌学者および歌人として、後鳥羽上皇に重んじられ当代第一人者となった「新古今集」撰者の一人。貞永元年権中納言となり、後堀河天皇の勅命で、「新勅撰集」を選ぶ。天福元年剃髪し、明静と称し仁治2年(1241)8月80歳で没。死後、紀貫之とともに歌聖といわれた