紀貫之
ひとはいさ心も知らずふるさとは
花ぞむかしの香ににほひける
【歌の背景】貫之が奈良の長谷の観音に参るたびに定宿にしていたところへ、しばらくぶりに行くと、その宿の主人が「このようにちゃんと宿はございますのに、本当にしばらくぶり(お見えになりませんでした)ですね」と皮肉を込めて言った。そこで彼は、そこの梅の花を一枝折り取って詠んだ歌。宿の詰問に対して即興で詠んだもの。
【歌意】人の心はさあどうであろうか、わからない。しかし昔なじみのこの里の梅の花だけは、昔の通り変わらない香を放って美しく咲いていることだ。
【作者のプロフィル】出自は異説が多く不詳。歌人としてはもちろん能書家、評論家として活躍。土佐守として赴任、任期を終えて京に上る途中書いた日記が「土佐日記」。
醍醐天皇の勅を奉じて、紀友則、凡河内躬恒、壬生忠岑らと勅撰和歌集の第一集「古今和歌集」二十巻を撰進。その仮名序を書き、歌人たちを論評した。明治までは万葉集の柿本人麻呂と並ぶ歌人とされた。