春道列樹
山かはに風のかけたるしがらみは
流れもあへぬもみぢなりけり
【歌の背景】山城国から如意岳を越えて近江国の志賀山を行くと晩秋のもみぢが美しい。山路一面に、そして山中を流れる谷川には流れようとして流れられないほどのもみぢを浮かべている。その様子をまるでしがらみのようだと歌ったもの。
【歌 意】志賀越えの山道から見ると、谷川の激しい流れをせき止めて、おびただしいもみぢがたまっている。あれは(志賀越えの名に因み)人ならぬ風がかけたもみぢのしがらみだ。
【作者のプロフィル】従五位下歌の雅楽頭だった新名宿禰の子。延喜10年(910)文章生に補せられ、のち太宰大典、延喜20年(920)に壱岐守に任ぜられたが、任地に向かう前に没したという。