大江千里
月みればちぢにものこそかなしけれ
わが身一つの秋にはあらねど
【歌の背景】是貞親王の歌合せに詠んだもの。秋の月を見て人の心に宿る悲しみを嘆いている。秋を悲しいもの、感傷的なものと見る季節観の型に合わせて作られた歌。
【歌意】秋の月を見ると、あれこれ悲しいことが思い起こされる。秋は世の中のすべての人に来た秋だのに、なぜか自分だけに来た秋のような気がして。
【作者のプロフィル】平城天皇の皇子・阿保親王(在原業平の父)の曾孫にあたり、参議大江音人の第三子。父音人の時代、もとは大枝と書いていたが、大江氏を賜り臣籍に下った。父に似て漢学、文学に優れ、とくに和歌に巧みだった。生没年不詳。