伊 勢
※伊勢守藤原継蔭のむすめ。
難波潟みじかき芦のふしの間も
逢はでこの世を過ぐしてよとや
【歌の背景】宇多天皇の皇后温子の兄、藤原仲平との恋を詠んだもの。恋人に対する思慕と怨恨とが入り混じった、恋する女性の心情を詠んでいる。
【歌意】難波の潟に生えているあの芦の短い節の間ほどのわずかな間でも、恋しいあなたに逢わないで、私たち二人の間を過ごしてしまえというのですか。(それはあんまりです。)
【作者のプロフィル】伊勢守、藤原継蔭のむすめ。仁和の頃、七条の后に仕えたので、父の官名を呼び名にしていた。はじめ藤原仲平、次いで宇多天皇の寵愛を受け、さらには宇多天皇の第四皇子敦慶親王と、恋人を変えた情熱的歌人。ただ、小野小町が情熱をそのまま表現したのに対し、彼女の歌は情熱を抑えた慎ましい表現であったのが特色。宇多天皇との間で行明親王を産んだため「伊勢の御息所(みやすどころ)」とも称せられた。